【報道】毎日新聞 特集ワイド:女たちの脱原発 座り込み集会ルポ
「原発いらない福島の女たち」「原発いらない全国の女たち」「脱原発をめざす女たちの会」を紹介した記事です。
(毎日新聞 2011年11月2日 東京夕刊)
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20111102dde012040025000c.html
特集ワイド:女たちの脱原発 座り込み集会ルポ
◇除染、除染というより、早く子どもの疎開を
「早く子どもたちを避難させて」。東京電力福島第1原発事故から7カ月余り。政府の緩慢な動きに業を煮やした福島県の女性たちが上京し、座り込みによる訴えかけを始めた。それを知った全国の女性たちも後に続き、賛同人にはあの大女優の名前も。女たちの脱原発−−その胸にあふれる思いを聞いた。【浦松丈二】
◇自然に近い健康野菜、一転「危ない」と…
◇住めない新築、加害者の賠償案なんて
◇被災地からの訴え 息長い支援が課題10月27日午前、東京都千代田区の経済産業省前に福島県の女性約70人が集まった。原発反対を意味する黄色い服装が目立つ。福島県の女性たちが3日間、さらに、それを支援する全国の環境団体などが5日までの7日間、連続10日間の座り込み集会の始まりだ。
「子どもたちを7カ月以上も放射能の海の中に放置したまま。母として女として命を未来につないでいく母性が許さない。私たちはこの思いを3日間に込めて座り込みたいと思います」。企画した福島県の女性有志による「原発いらない福島の女たち」の世話人、佐藤幸子さん(53)があいさつに立った。
佐藤さんは5児の母。福島県川俣町で被災し、すぐに転校できない中高生2人を残して山形県に避難した。農業を営む夫は、安全な農地を求めて岡山県へ。事故で一家離散の憂き目に遭っている。
「福島の女性が主催し、経産省前で直接行動に出るのは初めて。しがらみの残る田舎から出てきて声を上げることが、女性にとってどれだけ大変か。政府は重く受け止めてほしい」と佐藤さん。
この日、参加者らは、原発行政を管轄する経産省の担当者に要請書を手渡した。▽全原発の即時停止と廃炉▽原発を再稼働しないこと▽子どもたちの即時避難・疎開と完全補償▽地元を補助金漬けにして自立を妨げる電源3法の廃止−−の4項目。11日までの文書回答を求めた。
だが、担当者は「原発への依存度を、中長期的に可能な限り引き下げていくというのが政府見解。放射線量の高い場所では除染に努めたい」と繰り返すだけ。福島市の元養護教諭、佐藤早苗さんが「除染している時は周囲の放射線量が高くなるので、先に妊婦や子どもたちを避難させてから作業をしてほしい」と訴えたが、回答はなかった。
「国は除染、除染というけれど……」。懸命に除染をしても、大雨で山から土砂が流れ出ると線量が元に戻ってしまう。まずは「子どもたちを疎開させてほしい」というのが参加者の総意だ。交渉の末、翌日、官邸に場所を移し首相補佐官に要請書を手渡した。
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座り込み2日目。関西電力が経産省原子力安全・保安院に対して大飯原発3号機(福井県おおい町)の安全評価(ストレステスト)を提出し、全国に先駆けて再稼働に向けた手続きが始まった。フクシマを置き去りにして全国の原発で「安全確認」のシナリオがじわりと進行する。
保安院が入る同省別館前で抗議していた宮城県角田市の農家、杉山仁子さん(51)は「露地ものが健康な野菜だとされていたのに、事故後はハウスものが安全ということになってしまった。自然に近ければ近いほど危ないということに、価値観が180度変わった。生き方まで否定されたような気持ちです」と嘆く。
自然に近い農業を実践してきた。福島第1原発から約60キロ。事故後、屋外で飼っていたニワトリのタマゴから微量の放射線が検出された。屋内飼育に変えて検出されなくなったが、養鶏も、農業自体もやめようかと思い悩んでいる。
「消費者は、政府に頼らず自ら安全かどうかを判断する材料を必要としている。食品添加物のように放射線量を表示して売らねばならない時代になってしまった……」
杉山さんら8世帯はカンパを募り放射線測定器を共同購入。今月下旬、一般市民も利用できる低料金の測定室をオープンさせるという。
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座り込み最終日。参加者たちは都心の銀座やJR東京駅周辺をデモ行進した。
福島県大熊町から会津若松市に避難している大賀あや子さん(38)は、東電本店前で涙が止まらなくなった。福島第1原発から約8キロの場所に35年ローンで自宅を新築したばかりだった。「新居には地元の材木を使い、屋根にソーラーパネルを乗せ、庭に井戸も掘った。ヤギを飼ってチーズを作るのは私の担当。自然の中で子どもを授かり、育てていきたかった……」
「住めない家」のローンが重くのしかかる。「再出発にお金が必要だけれど、加害者が勝手に作った賠償案なんて受け入れられない」と憤る。
3日間の座り込みには福島県から延べ200人以上、県外から延べ2000人以上が参加した。北海道、大阪、広島、和歌山、富山など国内各地、ニューヨークやロサンゼルスでも福島の女性と連帯する集会が開かれた。
一方、今月23日に発足集会を開く「脱原発をめざす女たちの会」は、評論家の吉武輝子さんや精神科医の香山リカさん、漫画家の倉田真由美さんらが呼びかけ「子どもたちに安全な地球を残すため、エネルギー政策の転換、脱原発の実現」を目指す。賛同人には女優の吉永小百合さん、竹下景子さんらも名を連ねる。
「女たちの会」の呼びかけ人の一人、田中優子・法政大学社会学部教授は「女性、母親が一番心配するのは子どものことでしょう。除染にしても、避難にしても、目の前の問題に対応しなければならないから、女性の活動は具体的なのです」と解説する。
「私たちの会は個人の活動を通じて知り合った人たちが連絡を取り合ってできたものです。吉永さんもライフワークとして原爆詩の朗読に取り組んでいます。皆、誰かに言われて参加しているわけではありません」
吉永さんはドラマ「夢千代日記」で胎内被爆した女性を演じたことから原爆詩を朗読するようになった。7月31日には広島市での日本母親大会で「日本のような地震の多い国では原発はなくなってほしい」と発言。その姿勢は一貫している。
田中教授は言う。「水俣の公害問題でも被害者が上京して訴えたことで運動が広がった。東北の被災地から出てきて座り込むのは大変なこと。どう息長くサポートしていくか。それが課題でしょう」
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福島の女性たちの座り込み集会が終わり、全国の女性に引き継がれた。再会を誓って抱き合い、記念撮影をする参加者たち。
「うさぎ追いし、かのやーまー……」
「故郷(ふるさと)」を口ずさむ声がどこからか聞こえてきた。